「茂木健一郎がアーティストを語る」
茂木
現代美術はありとあらゆるものの中で最も自由な表現です。それゆえに苦しい。でも、だからこそやりがいがあると言う事で大変注目しています。
秋元
アーティストと普通の人の違いを脳科学者の視点から聞かせてください。
茂木
本当に優れたアーティストの中には「怪物」が居る。言い換えると「闇」です。その怪物を飼いならす事ができた人だけが本当にすぐれたアーティストになる。でも、その闇をそのまま出してしまっては駄目で、「美」に変えなくてはいけない。批評性が大事だと言われますが、批評するだけなら批評家だったり評論家でもいい。アーティストは、アート=美にしなくてはいけないのが難しい。だから普通の人にはアーティストになるのはお勧めできないですね。すごく業が深い職業だと思います。
秋元
私もビッグアーティストといわれる人と仕事をさせてもらい、この人本当に本物かなって思う人や、違うなって思う人も居ます。本当に凄い人は狂っているんです。それを制御するだけで精一杯。日常生活では、それを抑えているのですが、仕事になるとバーンと出てきて、僕たちはそれに付き合うのが仕事。それは本当にきついのですが、出来たものは信じられない美しさを持っています。それを見たときにはアートの美しさが身体に染み渡ります。よく考えるのですが、スポーツ選手が世界記録出す時と、そうでない時がある。世界記録が出せるのは、鍛錬を重ねてその人の一生で一回か二回。アーティストも近いくらいの確率でしか実力を出せないのではないでしょうか。その瞬間をプロデュースできるか、その場を作れるかが私の仕事だと思っています。作品の評価をするだけではなく、それがその人にとって最高傑作だっていうのを出せる手伝いがしたいですね。
茂木
僕の研究テーマは「クオリア」という概念で、アートにも重大な関心を持っています。僕の仕事はアーティストの一番美しい、優れたところを探して文章にする事だと思っています。秋元さんがおっしゃるように、すばらしいアートって奇跡のようなもので、そんな簡単には出来ない。たいていのアーティストの作品は、素晴らしいのだけれど狂うまではいかない。だからといって一部の批評家みたいにそれを切り捨てる事はしたくなくて、自分も作る側として、どうやったら出来るのかと模索しているような状態でアートを見ていきたいと思います。
金沢21世紀美術館に収蔵されているアニッシュ・カプーアは僕が大好きな作家です。斜面に大きく一つ黒いだ円を描いたカプーアの作品をながめていると、様々な視覚、心理現象が生じた。やっぱりこの人は大した人だと感心していると、子どもが数人部屋に入ってきて中の様子をのぞくと「うひゃあ」という感じであっという間に去っていった。それを見て思い出したのは、僕が小学生低学年の頃、近くの高校の文化祭に行った時の事です。お化け屋敷があり好奇心にかられてのぞき込むと暗い中で何かアッサリとしたものが動いていて、なんだ、と一瞬で飛び出しました。相手の苦労といったものを顧慮しない、あのいかにも子どもらしい爽やかな見切り。同じものをカプーアの部屋の入り口で引き返した子どもたちに感じました。しかし、それで良いのだと思います。
芸術的高みを目指す事と、子どもでも楽しめるような空間作り。この難しいふたつの命題を同居させようとしている金沢21世紀美術館はすごいと思いました。これからの金沢のアートシーンを応援したいと思うのと同時に、次は何をしてくれるのか楽しみにしています。
(8月5日、puddleにて行われた「茂木健一郎が金沢のアーティストと大いに語る!!」より)
文/中西研大郎

写真/左から伊能一三、山本基、辻和美、上出惠悟、茂木健一郎、秋元雄史
(c)Kanazawa Art Event Calender Equal
Web Equal vol.2 2007.11~2008.1 |
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Brain Science もぎ けんいちろう 「クオリア日記」 1962年生まれ。脳科学者、理学博士、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー、東京工業大学大学院連携教授(脳科学、認知科学)。「QUALIA:クオリア(感覚の持つ質感)」をキーワードに、脳とこころの関係を研究する脳科学者。脳と神経に関する解説書や書籍も多数出版。「アハ体験」をするためのプレイステーション・ポータブル用ゲームソフト「ソニーコンピュータサイエンス研究所 脳に快感 みんなでアハ体験!」の監修のほか、ソニーの高級AV機器ブランド「QUALIA」のコンセプターも努める。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」をはじめテレビや雑誌での文芸評論、美術評論にも活躍の場を広げている。 |
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金沢21世紀美術館 館長 プロフィール/1955年生まれ。 |